連載 No.52 2017年04月02日掲載

 

考えたい撮影マナー


私の住んでいる千葉県の房総半島は、関東では一足先に春を満喫できる地域だ。

春休みの小旅行などのテレビ番組で紹介されることも多い。

半東の内陸部を走るローカル線いすみ鉄道は、四季折々の鉄道風景をカメラに収めようと、

線路の両側に多くのカメラマンたちが陣取っている。



この季節、菜の花の中を一両の客車が走る光景は、鉄道マニアでなくてもしばらく眺めていたくなる。

桜並木、秋には彼岸花と、季節ごとにそれぞれ決まったポイントがあり、

タイムスリップしたようなのどかな風景は地域のポスターなどに使われている。



10年ほど前に転居した当初は、数人のカメラマンを休日に見かけるぐらいだったが、

ここ数年は平日でも、三脚の密集するひとだかりをいたるところで目にするようになった。

地域の人気というだけでなく、いわゆる写真愛好家が年々増えているように感じる。



冬の北海道でも同じことがいえる。訪れる人も少なかった野付半島にも野生動物を撮影する人が増えた。

撮影ツアーのマイクロバスが、今年は大型観光バスに変わっていたのには驚いた。

望遠レンズを持った集団がエゾシカやオオワシを追って道路に散っていく光景は、地元の人にどう映るのだろう。



多くの人が訪れる美瑛や富良野などでも環境保護の観点で地元とトラブルがあり、撮影スポットが閉鎖されたとの話を聞く。

昨年切り倒されて話題になった「哲学の木」は人気のモニュメントだったが、

撮影マナーについて考えさせられるエピソードといえる。

写真を楽しむ人が増えたことは喜ばしいが、

同じ場所に大挙する様子を見ていると、一つずつ撮影場所が消えていくようで寂しく思えてしまう。



マナーの徹底が叫ばれているが、もともと景勝地ではない生活環境に多くの人が集まってしまうことも問題だろう。

私が写真を学んだころは正直なところマナーという概念が薄く、

邪魔な木の枝は切る、私有地だろうがためらわず立ち入り人より目に出て撮る、そう教えられた。

それでも、写真を撮るだけなら、と大目に見てくれたはカメラマンの絶対数が少なかったからだろう。



カメラマン同士の気遣いという感覚も、昔はなかったように思う。

学生時代、三脚を立てて撮影している私の前に、

大御所と思しき写真家が大勢のお弟子さんを連れてやってきたことがある。

その時は仕方なく撮影をあきらめたが、

それから比べれば、雑誌やセミナーでマナーを学んだ人たちは礼儀正しくあいさつに来る。



写真人口は今後も増え続ける。

マナー向上を訴えていく以外に解決策はない。

カレンダーを追うように、菜の花、桜、紫陽花、蛍、花火…、

皆が同じものを撮る。それだけが写真ではないことも知ってもらいたい。